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オシロスコープの仕様を見ると、「1GSa/s」「500MSa/s」などのサンプリングレートが記載されています。
しかし、数字が大きいほど高性能だと分かっていても、
- 測定する信号の何倍あればよいのか
- 周波数帯域との違いは何か
- サンプリングレートが不足するとどうなるのか
までは分かりにくいのではないでしょうか。
オシロスコープのサンプリングレートとは、1秒間に入力信号の電圧を測定する回数です。
波形を正しく表示するためには、理論上は「測定したい最高周波数成分の2倍を超えるサンプリングレート」が必要です。
ただし、実際のオシロスコープでは2倍では余裕がありません。基本的には、測定したい最高周波数成分の5倍以上を目安にすると安心です。
さらに、矩形波やパルス波形では基本周波数だけでなく、高調波や立ち上がり時間を考慮する必要があります。
この記事では、オシロスコープのサンプリングレートについて、必要な値の計算方法や波形が正しく表示される条件を分かりやすく解説します。
オシロスコープのサンプリングレートとは

サンプリングレートは、デジタルオシロスコープが1秒間に入力信号を何回測定するかを示す値です。
単位には、S/s(サンプル毎秒)を使用します。
| 表記 | 1秒間のサンプル数 |
|---|---|
| 1kSa/s | 1,000回 |
| 1MSa/s | 100万回 |
| 1GSa/s | 10億回 |
| 10GSa/s | 100億回 |
例えば、サンプリングレートが1GSa/sの場合、1秒間に10億回の測定を行います。
このときのサンプリング間隔は、次の式で求められます。
サンプリング間隔 Δt=1÷サンプリングレート fs
1GSa/sの場合は、
Δt=1÷10億=1ns
となり、1nsごとに信号の電圧を取得します。
サンプリングレートが高いほど時間方向の測定間隔が細かくなり、短時間の変化や高速な波形を捉えやすくなります。
オシロスコープが波形を表示する仕組み
デジタルオシロスコープは、入力されたアナログ電圧を連続的に記録しているわけではありません。
一定の時間間隔で電圧を測定し、取得した点を並べることで波形を作っています。
例えば、正弦波を1周期あたり20点で測定すると、元の形状に近い滑らかな波形を再現できます。
一方、1周期あたり2~3点しか測定できない場合、元の信号が正弦波なのか、三角波なのかを正しく判断することが難しくなります。
オシロスコープの画面上では、取得した点の間を直線補間やSin(x)/x補間によって結んでいます。そのため、画面上で波形が滑らかに見えても、実際の測定点が十分に存在するとは限りません。
「きれいに表示されているから正しい」とは限らない点に注意しましょう。
波形を正しく表示するための4つの条件
オシロスコープで波形を正しく表示するには、サンプリングレートだけでなく、次の4つの条件を確認する必要があります。
- サンプリングレートが十分に高い
- オシロスコープの周波数帯域が十分に広い
- メモリ長が測定時間に対して十分に大きい
- プローブとトリガが正しく設定されている
それぞれ詳しく見ていきましょう。
条件1:ナイキスト周波数を超えるサンプリングレートにする
信号を正しく再現するための理論的な条件として、ナイキストの定理があります。
ナイキストの定理では、信号に含まれる最高周波数をfmaxとすると、サンプリングレートfsは次の条件を満たす必要があります。
fs>2×fmax
例えば、最高周波数が1MHzの信号を測定する場合、理論上は2MSa/sを超えるサンプリングレートが必要です。
サンプリングレートの半分に相当する周波数は、ナイキスト周波数と呼ばれます。
ナイキスト周波数=サンプリングレート÷2
10MSa/sで測定する場合、ナイキスト周波数は5MHzです。
5MHzを超える周波数成分が入力されると、実際とは異なる低い周波数として表示される可能性があります。
ただし、最高周波数成分の2倍という条件は理論上の最低条件です。有限のメモリで波形を取得する実際のオシロスコープでは、2倍だけでは十分な波形再現が難しいとされています。
実際には最高周波数成分の5倍以上が目安
実際の測定では、サンプリングレートを最高周波数成分の2倍に設定しただけでは、1周期あたり2点程度しか取得できません。
これでは周波数を判定できたとしても、振幅や波形形状を正確に測定することは困難です。
そのため、一般的な測定では次のように考えるとよいでしょう。
| 測定目的 | サンプリングレートの目安 |
|---|---|
| エイリアシングを避ける理論上の最低条件 | 最高周波数成分の2倍超 |
| 正弦波の周波数や振幅を確認 | 最高周波数成分の5倍以上 |
| 波形形状や立ち上がりを詳しく確認 | 5倍以上を確保し、可能な限り余裕を持たせる |
| 直線補間で正確に表示 | 最高周波数成分の10倍程度 |
テクトロニクスでは、Sin(x)/x補間を使用する場合は最高周波数成分の2.5倍以上、直線補間の場合は10倍以上のサンプリングレートが必要と説明しています。
使用しているオシロスコープの補間方式が分からない場合は、最高周波数成分の5~10倍程度を目安にすると安全です。
条件2:周波数帯域を十分に確保する
サンプリングレートが十分に高くても、オシロスコープのアナログ周波数帯域が不足していると、波形は正しく表示されません。
サンプリングレートと周波数帯域の役割は異なります。
| 項目 | 意味 |
|---|---|
| サンプリングレート | 時間方向にどれだけ細かく測定するか |
| 周波数帯域 | どこまで高い周波数成分を入力できるか |
| 垂直分解能 | 電圧方向にどれだけ細かく測定するか |
例えば、1GSa/sのサンプリングレートを持っていても、オシロスコープの帯域幅が20MHzであれば、100MHzの信号を正確には測定できません。
帯域幅が不足すると、高周波成分が減衰するため、次のような現象が起こります。
- 振幅が実際より小さく表示される
- 矩形波の角が丸くなる
- 立ち上がり時間が遅く表示される
- 短いパルスやノイズを見逃す
つまり、波形を正しく測定するには、周波数帯域とサンプリングレートの両方を確認する必要があります。
条件3:メモリ長と測定時間を確認する
サンプリングレートと同時に確認したいのが、レコード長またはメモリ長です。
メモリ長とは、オシロスコープが1回の波形取得で保存できるサンプル数を表します。
サンプリングレート、メモリ長、測定時間には次の関係があります。
メモリ長N=サンプリングレートfs×測定時間T
変形すると、実際のサンプリングレートは次の式で求められます。
fs=N÷T
例えば、メモリ長が1Mポイントで、10msの波形を記録する場合は、
fs=1,000,000÷0.01=100MSa/s
となります。
同じ1Mポイントのメモリで1秒間を記録すると、
fs=1,000,000÷1=1MSa/s
まで低下します。
つまり、長時間の波形を表示しようとしてTime/divを大きくすると、オシロスコープが自動的にサンプリングレートを下げることがあります。
カタログに「最大1GSa/s」と書かれていても、常に1GSa/sで測定されるわけではありません。
大容量メモリを搭載したオシロスコープほど、長時間の波形を高いサンプリングレートのまま記録できます。

条件4:プローブとトリガを正しく設定する
サンプリングレートが十分でも、プローブやトリガの設定が不適切だと、波形が乱れたり流れたりします。
特に確認したいのは、次の項目です。
- プローブの帯域幅が信号に対して十分か
- プローブ倍率が本体設定と一致しているか
- グランド線が長すぎないか
- トリガソースが正しいチャンネルか
- トリガレベルが波形の振幅範囲内か
- エッジの立ち上がり・立ち下がり設定が正しいか
トリガが不安定な場合、波形が横方向に流れて見えます。
一方、サンプリングレートが不足している場合は、波形の周波数や形状そのものが誤って表示されます。
「波形が止まらない問題」と「波形が正しくない問題」を分けて考えることが重要です。
サンプリングレート不足で起こるエイリアシングとは

サンプリングレートが不足すると、エイリアシングと呼ばれる現象が発生します。
エイリアシングとは、高い周波数の信号が、実際より低い周波数の信号として表示される現象です。
例えば、入力信号とサンプリングのタイミングが少しずつずれていると、本来は高速で変化している波形が、ゆっくり変化する波形のように見えることがあります。
条件によっては、交流信号が直線のように表示されることもあります。
エイリアシングが発生すると、次のような誤測定につながります。
- 周波数が実際より低く表示される
- 存在しない波形が表示される
- 波形の振幅が変化する
- 波形が突然止まったように見える
- FFTに偽の周波数成分が表示される
テクトロニクスも、サンプリング不足によって信号周波数が誤認され、低い周波数や平坦な線として表示される場合があると説明しています。
エイリアシングを見分ける方法
エイリアシングが疑われる場合は、オシロスコープのTime/divを変更してみましょう。
時間軸を拡大または縮小したときに、表示される周波数や波形形状が大きく変化する場合は、エイリアシングが発生している可能性があります。
確認手順は次のとおりです。
- 現在表示されているサンプリングレートを確認する
- Time/divを小さくして波形を拡大する
- メモリ長を増やす
- サンプリングレートが上がったことを確認する
- 周波数や波形形状が変化するか確認する
時間軸の変更によって波形形状が大きく変わることは、エイリアシングを見分ける代表的な方法です。
正弦波に必要なサンプリングレートの計算例
100kHzの正弦波を測定する場合を考えます。
理論上の最低サンプリングレートは、
100kHz×2=200kSa/s超
です。
しかし、200kSa/sでは1周期あたり約2点しか取得できません。
実用上は5倍以上を目安として、
100kHz×5=500kSa/s以上
に設定します。
振幅や位相をより正確に測定したい場合は、1MSa/s以上に設定すると余裕があります。
矩形波に必要なサンプリングレートの計算例
矩形波には、基本周波数だけでなく3次、5次、7次などの高調波が含まれます。
そのため、1MHzの矩形波だからといって、5MSa/sに設定すれば必ず正しく表示できるわけではありません。
例えば、5次高調波まで観測したい場合、最高周波数成分は、
1MHz×5=5MHz
です。
最高周波数成分の5倍を目安にすると、
5MHz×5=25MSa/s
となります。
したがって、1MHzの矩形波の形状まで確認したい場合は、少なくとも25MSa/s程度を確保したいところです。
より鋭いエッジを観測する場合は、さらに高い周波数帯域とサンプリングレートが必要になります。
パルス波形は立ち上がり時間から考える
デジタル信号やパルス信号では、繰り返し周波数よりも立ち上がり時間が重要です。
例えば、繰り返し周波数が100kHzでも、立ち上がり時間が数nsであれば、そのエッジ部分には非常に高い周波数成分が含まれています。
Keysightが示す選定方法では、次の式を使用します。
信号帯域幅=0.5÷信号の立ち上がり時間
オシロスコープの帯域幅=2×信号帯域幅
サンプリングレート=4×オシロスコープの帯域幅
立ち上がり時間が10nsの場合は、
信号帯域幅=0.5÷10ns=50MHz
必要なオシロスコープ帯域幅=2×50MHz=100MHz
必要なサンプリングレート=4×100MHz=400MSa/s
となります。
したがって、立ち上がり時間10nsのパルスを詳しく観測する場合は、100MHz以上の帯域幅と400MSa/s以上のリアルタイムサンプリングレートが目安です。
必要サンプリングレートの早見表

| 測定する信号 | 測定条件 | サンプリングレートの目安 |
|---|---|---|
| 1kHz正弦波 | 周波数・振幅の確認 | 5~10kSa/s以上 |
| 100kHz正弦波 | 周波数・振幅の確認 | 500kSa/s~1MSa/s以上 |
| 1MHz正弦波 | 周波数・振幅の確認 | 5~10MSa/s以上 |
| 1MHz矩形波 | 5次高調波まで確認 | 25MSa/s以上 |
| 10MHz矩形波 | 5次高調波まで確認 | 250MSa/s以上 |
| 立ち上がり10nsのパルス | エッジ形状を確認 | 400MSa/s以上 |
| 立ち上がり1nsのパルス | エッジ形状を確認 | 4GSa/s以上 |
表の数値は最低限の目安です。
実際には、オシロスコープやプローブの帯域幅、補間方式、測定精度、使用チャンネル数によって必要な性能が変わります。
複数チャンネル使用時の注意点
オシロスコープのカタログに記載されている最大サンプリングレートは、1チャンネルだけを使用した場合の値であることがあります。
複数チャンネルを同時に使用すると、内部のA/Dコンバータやメモリを共有するため、チャンネルあたりのサンプリングレートが低下する機種があります。
例えば、最大1GSa/sの4チャンネルオシロスコープでも、4チャンネル同時使用時には各チャンネルが250MSa/sや500MSa/sになる場合があります。
製品を選ぶ際は、最大値だけでなく、次の仕様を確認しましょう。
- 1チャンネル使用時のサンプリングレート
- 2チャンネル使用時のサンプリングレート
- 全チャンネル使用時のサンプリングレート
- チャンネルごとのメモリ長
- リアルタイムサンプリングか等価時間サンプリングか
等価時間サンプリングとリアルタイムサンプリングの違い
オシロスコープのサンプリング方式には、主にリアルタイムサンプリングと等価時間サンプリングがあります。
リアルタイムサンプリング
1回の波形取得で、すべてのサンプルを連続して取得する方式です。
単発パルス、グリッチ、起動波形など、繰り返さない現象の測定に適しています。
等価時間サンプリング
周期的に繰り返される信号を複数回測定し、少しずつ異なるタイミングのデータを組み合わせて波形を再現する方式です。
見かけ上は非常に高いサンプリングレートを実現できますが、単発現象や周期ごとに変化する信号には向いていません。
製品仕様に非常に高いサンプリングレートが記載されている場合は、それがリアルタイムサンプリングレートなのか、等価時間サンプリングレートなのかを確認しましょう。
よくある間違い
最大サンプリングレートだけを見て購入する
最大値だけでなく、測定時間を長くした場合や複数チャンネルを使用した場合の実効サンプリングレートを確認する必要があります。
信号周波数の2倍あれば十分だと考える
2倍はエイリアシングを避けるための理論上の最低条件です。
振幅や波形形状を正確に確認するには、さらに高いサンプリングレートが必要です。
矩形波の基本周波数だけで計算する
矩形波やパルスには高調波が含まれます。
波形形状を確認したい場合は、観測したい最高高調波または立ち上がり時間を基準に計算します。
波形が滑らかなら正確だと判断する
画面上の波形は、測定点の間を補間して表示しています。
実際のサンプル点が少なくても滑らかに表示される場合があるため、サンプリングレートの数値を必ず確認しましょう。
サンプリングレートだけを高くする
オシロスコープ本体やプローブの帯域幅が不足している場合、高いサンプリングレートを設定しても失われた高周波成分は測定できません。
波形が正しく表示されないときのチェックリスト
波形に違和感がある場合は、次の順番で確認しましょう。
- 画面に表示されている実際のサンプリングレートを確認する
- サンプリングレートが最高周波数成分の5倍以上あるか確認する
- Time/divを小さくしてサンプリングレートを上げる
- メモリ長を増やす
- 使用チャンネル数を減らしてみる
- オシロスコープの周波数帯域を確認する
- プローブの帯域幅と倍率設定を確認する
- グランド線を短くする
- トリガソースとトリガレベルを確認する
- 時間軸を変更したときに波形や周波数が変化しないか確認する
時間軸を変えたときに周波数や形状が大きく変化する場合は、エイリアシングを疑いましょう。
まとめ:サンプリングレートは最高周波数成分の5倍以上が基本
オシロスコープのサンプリングレートは、1秒間に入力信号を測定する回数です。
波形を正しく表示するためのポイントは、次のとおりです。
- 理論上は最高周波数成分の2倍を超える値が必要
- 実際の測定では最高周波数成分の5倍以上が基本
- 直線補間では10倍程度必要になる場合がある
- 矩形波やパルスは高調波と立ち上がり時間を考慮する
- サンプリングレートだけでなく周波数帯域も確認する
- 長時間測定ではメモリ長によって実効サンプリングレートが低下する
- 複数チャンネル使用時は最大サンプリングレートが低下する場合がある
- 時間軸の変更で波形が変化する場合はエイリアシングを疑う
サンプリングレートは、カタログ上の最大値ではなく、実際の測定条件で維持できる値を確認することが重要です。
測定したい信号の最高周波数成分や立ち上がり時間から必要な値を計算し、周波数帯域、メモリ長、プローブ性能を含めて測定系全体を選びましょう。
よくある質問
オシロスコープのサンプリングレートは周波数の何倍必要ですか?
理論上は最高周波数成分の2倍を超える値が必要です。ただし、実際の測定では5倍以上を基本とし、波形形状を詳しく確認する場合はさらに余裕を持たせます。
100MHzの信号には何GSa/s必要ですか?
正弦波の周波数や振幅を確認する場合は、500MSa/s以上が一つの目安です。より正確に波形形状を確認する場合は、1GSa/s以上を選ぶと余裕があります。
ただし、100MHzの矩形波では高調波が含まれるため、必要なサンプリングレートはさらに高くなります。
サンプリングレートと周波数帯域の違いは何ですか?
サンプリングレートは時間方向の測定間隔を表し、周波数帯域はオシロスコープに入力できる周波数範囲を表します。波形を正確に測定するには、両方の性能が必要です。
サンプリングレートが低いとどうなりますか?
実際とは異なる低い周波数が表示されるエイリアシングが発生します。また、振幅や波形形状が変化し、短いパルスやグリッチを見逃す可能性があります。
Time/divを変えるとサンプリングレートが変わるのはなぜですか?
オシロスコープが保存できるサンプル数には上限があるためです。表示する時間を長くすると、限られたメモリ内に収めるため、サンプリング間隔が広くなって実効サンプリングレートが低下します。

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