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はじめに
PEDOT:PSSは、導電性高分子の一種で、透明電極、有機デバイス、センサー、フレキシブルデバイスなどに使われる材料です。
水系の分散液として扱いやすく、塗布によって薄膜を作れるため、研究室での試作にもよく利用されます。
一方で、実際にPEDOT:PSSを扱っていると、
「前回より抵抗値が高い」
「測定値が安定しない」
「乾燥後の膜の状態が違う」
「時間が経つと導電性が落ちている気がする」
といった変化に気づくことがあります。
私自身も、PEDOT:PSSを電極材料として扱う中で、作製条件や保管状態によって結果が変わる可能性を感じました。
この記事では、PEDOT:PSSが劣化する原因について、湿度・乾燥・導電性低下の観点から、理系大学生の実験目線で整理します。
PEDOT:PSSとは?

PEDOT:PSSは、PEDOTとPSSという2つの成分からなる導電性高分子材料です。
PEDOTは電気を流しやすい性質を持つ成分で、PSSはPEDOTを水に分散させやすくする役割を持っています。
簡単にいうと、PEDOTが導電性を担い、PSSが水に扱いやすくするための補助的な役割をしているイメージです。
PEDOT:PSSは、以下のような特徴を持っています。
- 塗布によって薄膜を作れる
- 比較的低温で加工しやすい
- 柔らかい基板にも使いやすい
- 透明電極やフレキシブル電極に応用しやすい
- 水系材料なので研究室でも扱いやすい
このように便利な材料ですが、湿度や保管環境、乾燥条件によって特性が変わりやすいという注意点もあります。
PEDOT:PSSが劣化する主な原因
PEDOT:PSSの劣化には、いくつかの原因が関係します。
主な要因を整理すると、次のようになります。

この中でも、特に重要なのが「湿度」と「乾燥条件」です。
PEDOT:PSSは水系材料であり、PSSは水分と関わりやすい性質を持っています。そのため、空気中の湿度や乾燥状態が膜の構造や導電性に影響する可能性があります。
湿度による劣化

PEDOT:PSSで特に注意したいのが湿度です。
湿度が高い環境では、PEDOT:PSS膜が水分を吸収しやすくなります。水分を吸収すると、膜が膨潤したり、PEDOTとPSSの分布状態が変化したりする可能性があります。
その結果、電気の流れやすさが変化し、抵抗値が上がったり、測定値が安定しにくくなったりします。
実験をしていると、同じ手順で作製したつもりでも、梅雨の時期や雨の日に結果がばらつくことがあります。もちろん、すべての原因が湿度とは限りませんが、PEDOT:PSSのような水分の影響を受けやすい材料では、湿度を無視することはできません。
特に、薄膜や柔らかい基板上にPEDOT:PSSを塗布している場合、膜のわずかな変化が測定結果に影響する可能性があります。
乾燥不足による影響

PEDOT:PSSを塗布した後は、乾燥工程が重要です。
乾燥が不十分な状態では、膜の中に水分が残っている可能性があります。この状態で測定すると、時間の経過とともに抵抗値が変化したり、測定値が安定しなかったりすることがあります。
また、乾燥条件が毎回そろっていないと、同じ材料を使っていても膜の状態が変わります。
たとえば、
- 乾燥時間が短い
- 乾燥温度が違う
- 室温や湿度が違う
- 塗布量が毎回少し違う
- 基板表面の状態が違う
といった違いが、結果に影響する可能性があります。
PEDOT:PSSを使う実験では、「何を塗ったか」だけでなく、「どのように乾燥させたか」まで記録しておくことが大切だと感じます。
導電性が低下する理由

PEDOT:PSSの導電性が低下する理由は、一つだけではありません。
PEDOT:PSSでは、導電性を担うPEDOTのつながり方や、絶縁性に近いPSSの分布が電気特性に関係します。
水分や乾燥条件の影響によって膜の内部構造が変化すると、PEDOT同士の電気的なつながりが弱くなり、電流が流れにくくなる可能性があります。
また、塗布ムラや膜厚のばらつきがあると、場所によって抵抗値が変わります。測定端子の当て方や電極との接触状態によっても、結果が変わることがあります。
そのため、導電性が下がったときには、材料そのものの劣化だけでなく、次のような点も確認する必要があります。
- 膜厚はそろっているか
- 塗布ムラはないか
- 乾燥条件は同じか
- 保管状態は同じか
- 測定端子の接触は安定しているか
- 基板や電極との密着性は十分か
抵抗値が変化したからといって、すぐに「PEDOT:PSSが完全に劣化した」と決めつけるのではなく、作製条件と測定条件を一つずつ確認することが大切です。
PSSの酸性による影響
PEDOT:PSSの劣化を考えるうえで、PSSの酸性も重要です。
PSSはPEDOTを水に分散させるために必要な成分ですが、酸性を示すことがあります。この酸性が、周辺材料や電極、デバイス構造に影響を与える可能性があります。
特に、金属電極や有機デバイスと組み合わせる場合、界面での劣化や安定性低下につながることがあります。
PEDOT:PSS単体では問題が小さく見えても、実際のデバイスでは他の材料と接触するため、界面の影響を考える必要があります。
つまり、PEDOT:PSSの劣化は「材料そのもの」だけの問題ではなく、「周囲の材料との相性」も関係するということです。
実験で見られる劣化のサイン
PEDOT:PSSの劣化や状態変化は、見た目や測定値に現れることがあります。
実験で注意したいサインとしては、以下のようなものがあります。
- 抵抗値が以前より高くなる
- 測定値のばらつきが大きくなる
- 電流値が安定しない
- 膜表面にムラが見える
- 乾燥後に白っぽく見える部分がある
- 膜がひび割れる
- 基板から剥がれやすくなる
- 電極との接触が悪くなる
- 同じ条件のはずなのに再現性が低い
これらの変化が見られた場合、PEDOT:PSSの劣化だけでなく、乾燥条件、膜厚、塗布方法、保管状態、測定方法を確認する必要があります。
特に、手作業で塗布している場合は、少しの違いが結果に影響しやすいです。
劣化を防ぐためにできる工夫

PEDOT:PSSの劣化を完全に防ぐことは難しいですが、条件をそろえることで変化を小さくすることはできます。
実験で意識したい対策は、次の通りです。
乾燥条件をそろえる
乾燥時間、乾燥温度、乾燥場所をできるだけ一定にします。
「自然乾燥した」「ドライヤーで乾かした」だけでは再現性が低くなるため、何分乾燥させたのか、どの温度で処理したのかを記録しておくとよいです。
湿度の影響を記録する
湿度が高い日と低い日では、PEDOT:PSS膜の状態が変わる可能性があります。
可能であれば、実験時の室温と湿度を記録しておくと、後から結果を見返すときに役立ちます。
密閉して保管する
作製したPEDOT:PSS膜や電極は、空気中に長時間放置すると水分の影響を受ける可能性があります。
保管する場合は、密閉容器に入れる、乾燥剤を使う、できるだけ湿度の高い環境を避けるなどの工夫が考えられます。
測定前の放置時間をそろえる
作製直後に測定する場合と、数時間後に測定する場合では、膜の状態が変わっている可能性があります。
そのため、「作製後何分で測定したか」をそろえることも大切です。
塗布量と膜厚を記録する
PEDOT:PSSの塗布量や膜厚が変わると、抵抗値も変わります。
手作業で塗布する場合は、完全に同じ膜厚にすることは難しいですが、塗布量、塗布範囲、乾燥後の見た目を記録しておくことで、ばらつきの原因を考えやすくなります。
必要に応じて封止を考える
デバイスとして長時間使う場合は、水分や酸素を防ぐために封止が必要になることがあります。
特に、湿度の影響を受けやすい構造では、外部環境からPEDOT:PSSを守る工夫が重要です。
研究初心者が気をつけたいポイント
PEDOT:PSSを初めて扱うときは、材料名や導電性だけに注目しがちです。
しかし、実際には作製条件や保管状態によって結果が変わることがあります。
研究初心者が特に気をつけたいのは、次の3つです。
1つ目は、結果だけでなく作製過程を記録することです。
抵抗値や電流値だけでなく、塗布時の様子、乾燥後の見た目、測定前の状態もメモしておくと、失敗の原因を考えやすくなります。
2つ目は、条件を一度に変えすぎないことです。
乾燥時間、塗布量、基板、保管方法を同時に変えてしまうと、何が原因で結果が変わったのか分かりにくくなります。
3つ目は、失敗したサンプルも記録しておくことです。
うまくいかなかった結果にも、次の改善につながる情報が含まれています。
PEDOT:PSSのような材料は、少しの条件差で結果が変わることがあるため、失敗例を残しておくことが重要です。
まとめ
PEDOT:PSSは、塗布しやすく、柔らかいデバイスや透明電極にも応用しやすい便利な導電性高分子材料です。
しかし、湿度や乾燥条件、保管状態、PSSの酸性、周辺材料との相性によって、導電性や膜の状態が変化することがあります。
特に、湿度による水分吸収や乾燥不足は、抵抗値の上昇や測定値のばらつきにつながる可能性があります。
PEDOT:PSSを安定して使うためには、次の点が大切です。
- 乾燥条件をそろえる
- 湿度や室温を記録する
- 密閉して保管する
- 測定前の放置時間をそろえる
- 塗布量や膜の状態を記録する
- 接触状態や膜厚のばらつきも確認する
PEDOT:PSSの劣化は、単に「時間が経ったから起こる」というより、作製条件・保管環境・測定条件が複雑に関係して起こるものだと考えられます。
研究や実験では、測定結果だけを見るのではなく、「どのような条件で作ったのか」「どのように保管したのか」「測定時の状態はどうだったのか」まで記録することが大切です。
PEDOT:PSSを扱うときは、材料の便利さだけでなく、劣化しやすいポイントにも注意しながら実験を進めていきたいです。
FAQ
PEDOT:PSSは空気中で劣化しますか?
空気中に置いたPEDOT:PSSは、湿度や酸素の影響を受ける可能性があります。特に湿度が高い環境では、水分を吸収して膜の状態や導電性が変化することがあります。
PEDOT:PSSの抵抗値が上がる原因は何ですか?
主な原因として、湿度による水分吸収、乾燥不足、膜厚のばらつき、塗布ムラ、電極との接触不良、保管状態の違いなどが考えられます。
PEDOT:PSSは乾燥させれば安定しますか?
乾燥は重要ですが、乾燥させれば完全に安定するとは限りません。乾燥後も湿度や保管環境の影響を受ける可能性があるため、保管方法や測定条件をそろえることが大切です。
PEDOT:PSSの劣化を防ぐにはどうすればよいですか?
乾燥条件をそろえる、湿度を記録する、密閉して保管する、測定前の放置時間を一定にする、必要に応じて封止するなどの対策が考えられます。
PEDOT:PSSの劣化は見た目で分かりますか?
膜のムラ、ひび割れ、剥がれ、白っぽい変化などが見える場合があります。ただし、見た目に変化がなくても導電性が変化している可能性があるため、抵抗値などの測定も必要です。
参考文献・参考情報
- Monitoring the Swelling Behavior of PEDOT:PSS Electrodes under High Humidity Conditions
- The damaging effects of the acidity in PEDOT:PSS on device stability
- Review on Tailoring PEDOT:PSS Layer for Improved Device Stability of Perovskite Solar Cells
- Stability enhancement of ITO-free organic solar cells using post-treated PEDOT:PSS
- PEDOT:PSSに関する各種材料メーカー・研究機関の技術情報

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